ご挨拶
わが国においてがん患者数は年々増加し、男女で2人に1人(男性は55%、女性は40%)は生涯のうちがんに罹患し、3人に1人はがんで亡くなると言われ、がんは依然として日本人の死因の第1位となっております。2006年にがん対策基本法が制定され、生活習慣の改善によるがんの予防、検診等によるがんの早期発見、がん治療成績の向上のために手術、薬物療法、放射線治療の代表的な治療の均てん化の促進や治療の精度向上、新治療技術・薬剤の開発がすすんできました。その中でも特にがん薬物療法の進歩は目覚ましいものがあります。その背景として、臨床試験のグローバル化(がん専門病院などでの臨床試験体制が整備され、高度で複雑化する臨床研究が世界と同時に行われるようになったこと)、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新規薬剤による新たな標準的治療や支持療法の進歩、確立などがあげられます。また、近年では多数の遺伝子を一度に調べ遺伝子異常を明らかにすることにより、一人一人の遺伝子異常や病状に合わせた治療などを提供しうるがんゲノム医療が注目されています。
NPO法人愛知キャンサーネットワークは、メディカルスタッフ・患者さんやそのご家族・一般の方々に対して、がん診療に係わる問題の改善や解決を図ること、各職種や各施設が個々の単位でレベルアップを目指すことで地域全体のがん診療の適正化と均てん化を図ることを目的として2013年より活動を行っております。県内の各医療機関のメディカルスタッフが協働して各種マニュアルを作成したり、幅広い内容のセミナー開催により標準的ながん薬物療法を遂行できる知識の提供や体制構築を行ったり、臨床研究や臨床試験を通して新たな治療や支持療法を開発したりして、その成果を学会・論文・ホームページ等で発表するなど、適正ながん診療の推進に努めてまいりました。また、進歩著しくますます複雑化するがん診療に関する一般の方々の理解を深めて頂くために、毎年最新のがん診療に関する市民公開講座(県民公開講座)を開催するなど、一般の方々への啓発活動にも積極的に取り組んでまいりました。2016年にはがん対策基本法が改正され、がん患者さんが尊厳を保持しながら安心して暮らすことのできる社会の構築を目指すことが謳われております。これを受けて、私たちもがん患者さんの就労の問題や若い世代のがんに関する諸問題、緩和ケアやがんの在宅医療などにも注目して勉強会や啓発活動を行ってまいりました。
毎年のように新たな薬剤が臨床導入され、各施設では、がん薬物療法やその支持療法に関する新しい情報のキャッチアップと適正使用を目指した取り組みが行われています。また、がん患者さんを取り巻く諸問題もさらに複雑化し増えてきているなか、各施設が問題解決に向けてさまざまな取り組みを行っています。しかしながら、2019年末からの新型コロナ感染症蔓延(コロナ禍)によって、臨床現場は日々の診療に追われ疲弊し、さらなるマンパワー不足と情報不足を引き起こしました。結果、進歩と変化の著しいがん診療の取り組みにおいて、個人レベルでの情報格差や、施設間格差が生じてきていることを憂えています。こういう時代だからこそ、われわれが連携し協力しあって、活動を活発化させることで、このような負の流れを食い止める必要があると考えています。
NPO法人愛知キャンサーネットワークは、今後も、がんに関する適正な診療推進、がん診療に係わる問題の改善や解決、がん診療のレベルアップと適正化に向けて積極的に活動してまいりますので、ご活用いただければ幸いです。
なお、入会も随時受け付けておりますので、ご興味のある方はぜひともご参加ください。
愛知キャンサーネットワーク 理事長
宮谷 美智子